東日本大震災復興支援
門天プロジェクト

2012年8月15日水曜日

【もんてんエネルギーシリーズ Vol. 3】報告

もんてんエネルギーシリーズ Vol. 3
 「原発事故の伝え方~大人から子どもたちへ~」報告

日時 2012年8月11日(土)15:00~18:00  
会場 門仲天井ホール
企画 YU-EN (斎藤弘美・高田ゆみ子・岡部幸江・笹本裕子・木村嘉代子・長沢義文)
主催 門仲天井ホール
支援先 未来の福島こども基金(http://fukushimachildrensfund.org/)

「東日本大震災復興支援門天プロジェクト」の一環として開催された「もんてんエネルギーシリーズ」最終回となる第3回は、「原発事故の伝え方」。エネルギーシリーズを始めるきっかけとなったのは、2月に開催した門天支援プロジェクト「映画『みえない雲』の上映と翻訳者 高田ゆみ子さんとお話しをする会」でした。このとき高田さんの、ドイツでは「みえない雲」(※1)を教材に、原発教育が行われてきたという話を聞いて、会場からドイツの原発教育について知りたいという声が多く寄せられました。「みえない雲」の作者 グードルン・パウゼヴァングさんはチェルノブイリ事故があったとき、「子どもたちには事故のことを知る権利がある」と考えて小説を書いたそうです。そこで、私たちは4月から始めるあらたなエネルギーシリーズの最後では、福島第一原発の事故を経験した日本で、子どもたちにどのように「原発」や「原発事故」を伝えればいいかを、考えてみることにしたのです。
当日のプログラムは第1部が新作映画「ネコマチッタ物語」(※2)の上映。この映画は人形の猫が主人公になっている子ども向けの短編映画で、小学生が原発について考えるきっかっけを提供してくれます。20分というのも上映しやすく、終了後、複数の方からぜひ、自分たちでも上映したいという声が届きました。
続いて第2部は高田ゆみ子さんによる「ドイツにおける原発事故の伝え方」についてのレポート。始めに小説「みえない雲」を使った授業実践のための手引き書について、実際の例を挙げながら説明しました。授業は「原発事故をどう生き残るか」をテーマに、どのようなことが起きていたか、政府の対応と自分たちはどのように対処すればいいかについて考えさせる内容になっていると解説。テキストの中から1 大災害と逃避行 2 原発事故の結果 3 政府の対応措置とその政策への批判 4 当事者の態度 5 この本と現実との関連 という順番で、その具体的な内容を紹介しました。また、周りの大人が何を言い、どのようなことをしたかを考えたり、この本の続きを考えてみよう、といった課題を出して子どもたちの想像力を引き出すような授業も行われているということでした。高田さんはさらに、フクシマ後の日本で、原発教育がどのようになされているかについても簡単に報告。文部科学省が新たに作成し、全国の小中高校に配布した「放射線に関する副読本」が、原発推進の立場から書かれていること、これに対して福島大学の放射線副読本研究会が「放射線と被ばくの問題を考えるための副読本~“減思力”を防ぎ、判断力・批判力を育むために~」(※3)を作成したことを紹介しました。会場では、文科省が作成した高校生用副読本を希望者に配布しましたが、この副読本が、原発事故以前に文部科学省が配布していた「わくわく原子力ランド」という副読本を作っていた原発推進団体が、3700万円で請け負ったものという話には、会場からもため息がもれていました。このほか福島では文科省の副読本はとても使えない、として県の教職員組合が独自で参考書(※4)を出版したことにも触れました。会場からはドイツで行われてきた原発教育のレベルの高さを驚く声が聞かれた一方で、日本では政府があいかわらず原発推進の立場からの教育を進めていることに危機感を募らせていました。
第3部は今回のメインメニューである「高校生向け課外授業の試み」。現役の高校教師である笹本裕子さんが、実際に教壇に立ったと想定してのモデル授業にチャレンジしました。タイトルは「福島原発事故から学ぶこと~大人から子どもたちへ伝えたいこと~」。授業はいきなり笹本さんがふくらませた風船が割れるところから始まりました。笹本さんがふくらまし続けるのを「危険」「でも割れたりはしないだろう」という気持ちで見ていた参加者に、「これが原発事故」と説明。その風船からは香水の香りが漂ってきましたが、これが放出される放射線で、目には見えないけれど私たちの皮膚につき、体内に入ると話しました。つづけて、放射線についての基礎的な知識とその影響、さらに原発について、危険性や経済性などさまざまな角度から、多くのわかりやすい資料を使って解説していきました。アクションも表情も豊かで、伝えたい気持ちがあふれた「笹本白熱教室」に、予定の90分を大幅に超えたにもかかわらず、生徒(参加者)たちはすっかり引き込まれてしまいました。
笹本さんが、生徒たちに最も伝えたかったこと、それは「自分で考え、判断できるようになることが大切」ということでした。そのためには教師がいかに子どもたちに正しい情報を提供できるかということが重要なカギになると思われます。授業のあと会場からは、実際に日本の学校教育で、先生の裁量で原発教育をすることが可能なのか、という質問が出されましたが、これについて現役の高校の先生という参加者お2人から「ホームルームの時間などを使えばできる」「長年にわたって原発について授業を行ってきたが、その経験から、教師がきちんと教えれば、生徒たちは非常によく理解する」という答えが返ってきました。大人たちが子どもたちにどのように伝えればいいか、これからも試行錯誤しながら考え、実践していかなければという思いをさらに強くした3時間の授業でした。
この日の参加費・寄付金あわせて26.000円は未来の福島子ども基金に寄付いたしました。

(※1)グードルン・パウゼヴァング 著 高田ゆみ子 訳
小説「みえない雲」(小学館文庫1987年発行 2006年文庫化)   
コミック「みえない雲」(小学館文庫2011年10月発行)
DVD「「みえない雲」2006年ドイツ(日本公開2006年/103分/シネカノン)
監督:グレゴール・シュニッツラー
(※2)「ネコマチッタ物語」(2012年制作・20分)
原作・ウッドール人形・プロデュース:小嶋伸     
監督・アニメート人形制作:鈴川香緒里
(※3)「放射線と被ばくの問題を考えるための副読本」https://www.ad.ipc.fukushima-u.ac.jp/~a067/FGF/FukushimaUniv_RadiationText_PDF.pdf
(※4)「子どもたちのいのちと未来のために学ぼう放射能の危険と人権」編著:福島県教職員組合 放射線教育対策委員会・科学技術問題研究会(2012.7明石書店)http://www.akashi.co.jp/book/b103047.html
                            (文責 斎藤弘美)


【もんてんエネルギーシリーズ Vol. 2】報告

もんてんエネルギーシリーズ Vol. 2
 「中川誼美さんとドキュメンタリー映画『パワー・オブ・コミュニティ』を観て
  エネルギーについて語りあう会~エネルギーを使わない豊かな暮らし~」報告

日時 2012年6月10日(日)15:00~18:00  
会場 門仲天井ホール
企画 YU-EN (斎藤弘美・高田ゆみ子・岡部幸江)
主催 門仲天井ホール
支援先 未来の福島こども基金(http://fukushimachildrensfund.org/)

「東日本大震災復興支援門天プロジェクト」の一環として開催された「もんてんエネルギーシリーズ」第2回は、キューバが石油危機を乗り越え、ピンチをチャンスに変えた経緯を追ったドキュメンタリー『パワー・オブ・コミュニティ』をゲストの中川誼美さんと観て、エネルギーについて語り合う会を開催しました。テーマは「エネルギーを使わない暮らし」。
原発事故以来、流行語のように口を突いて出てくる「節電」の2文字。311直後の計画停電の経験から、いままで如何に無意識に電気を、エネルギーを消費していたかを実感するようになりました。ちょっと暗くなった地下街や駅のホームにも慣れ、家の電気はこまめに消すようになり、ついでにアンペアダウンもしてみた…。そう、思い返してみればほんの少し前の日本では、今のように電気はたくさん使っていなかったのです。「家電製品の三種の神器」といわれた冷蔵庫、洗濯機、テレビが登場したのが1950年代後半。続いてカラーテレビ、クーラー、自家用車の3Cが1960年代半ばから「新・三種の神器」として家庭に入り込み、エネルギー消費はそれまでとは比較にならないほど膨大になりました。そして1980年、私たちはオイルショックを経験。エネルギー消費を見直すきっかけになったはずでしたが、日本が選んだのは原子力発電所の増設でした。
そんな日本とは対照的に、今回の映画の舞台キューバでは、石油の輸入が半減してしまったソ連崩壊後の1990年以降、食料の輸入8割減という事態に直面。大規模な近代化農業から、都市を含めて農地化できるところでは至る所で有機農業を展開し、ピンチをチャンスに変えていったのです(※1)。キューバのこうした挑戦は、原子力から自然エネルギーへの転換を迫られている私たちに勇気と希望を与えてくれるのでは…ということで、その経緯を記録した映画「パワー・オブ・コミュニティ~石油から自然エネルギーへ/キューバに学ぶ思いやりと分かち合いの新世界~」を上映しました。
一方、会場でこの映画を一緒にご覧になったゲストの中川誼美さんは、自然と共にあった「少し前の日本の暮らし」を思い出して!と呼びかけ(※2)、ご自身も実践していらっしゃる旅館「吉水」(※3 )の女将。中川さんの宿には、テレビも電話も冷蔵庫もクーラーもありません。竈でご飯を炊き、化学調味料を一切使わない、「いのちがよろこぶ」調理法で食事を作っています。中川さんがそのような生活になったのは、結婚を機に移り住んだウッドストックでの経験からだったそうです。この日は参加者のために、わざわざご自宅から、蓬・朴葉・スギナを干して作った自家製のお茶と、3分搗きの玄米に刻んだカブの葉を混ぜ込んだおにぎり、それに味付けをしていないのに塩味がほんのり感じられる大豆の煮物を作ってきて、ご馳走してくださいました。素材本来の味を活かした調理法に舌鼓を打った参加者たち。納豆をカップのまま食べる人が多いけれど…、といった身近な例を挙げて「食べる」ということをもっと大切に、という中川さんのことばに頷いていました。お話しは食生活だけでなく、かつての日本にあった家族の団らんについても。中川さんは家族が家に揃うことが少なくなるにつれて、日本の家にはモノがあふれるようになったといいます。まるで心の穴をモノで埋めているよう、という中川さん。311の東日本大震災と原発事故のあと、「銀座吉水」廃業してしまいましたが、現在も京都府の2つの「吉水」を経営するほか、2010年からは築地本願寺をはじめ、各地で朝市を開催するなど、日本中を飛び回って「ちょっと前の日本の暮らしを大切に」と呼びかけていらっしゃいます。
キューバが実践した農業改革と中川さんが実践している「ちょっと前の日本の暮らし」。これこそ私たちが今、ピンチをチャンスに変えるポイント、といえそうです。
なお、この日の参加費・寄付金あわせて25.000円は未来の福島子ども基金に寄付いたしました。

(※1)「パワー・オブ・コミュニティ
~石油から自然エネルギーへ/キューバに学ぶ思いやりと分かち合いの新世界」
原題:The Power of Community: How Cuba Survived Peak Oil 
制作:Arther Morgan Institute of Community Solutions 
日本語字幕版制作:日本有機農業研究会科学部
(※2)『ちょっと前の日本の暮らし』(中公新書ラクレ 2010.11)
『本当に大切にしたい日本の暮らし』(WAVE出版 2011.7)
(※3)京都吉水・あやべ吉水 http://www.yoshimizu.com/
                               (文責 斎藤弘美)